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2023/05/15

レッドリストを学ぶ

絶滅危惧種とは、生物学的な観点で絶滅の危機の度合いを評価された種として、各種のレッドリストに掲載された野生生物のことを言います。
未知の生物や、絶滅の危機と判断できるほどのデータが存在しない生物はこの種には含まれていないため、実際には数値以上の種があると考えられます。

「絶滅危惧種」が世界中に存在し、その種が増えていることは周知の事実です。
しかし、「そのリストに自分が、ヒトという生き物が載るかもしれない。」とは思って来なかったのではないでしょうか。
今そのリスクは目の前まで来ています。

2030年までに生物多様性の損失を右肩下がりの状態から脱すること
これがNature Positiveであり、文字通り子ども達に未来を残せる方策です。

これは余談にはなりますが、赤には危険、緊急といったイメージがあるので、レッドリストと呼ばれているかと思われがちです。しかし、実はIUCNが最初に作成した冊子の表紙が赤かったため、レッドリストと今も呼ばれているそうです。

複数存在するレッドリスト

スイスに本部を置く国際自然保護連合 (IUCN)が選定しているレッドリストの他、日本国内では環境省のレッドリスト、自治体やNGOが独自で選定しているレッドリストなど、実は複数のレッドリストが存在していることはご存知でしょうか?

なぜならば、生物多様性の保全は地域ごとの取り組みが非常に重要だからです。
例えば世界全体の数値では絶滅の危機とはいえない種であっても、特定の地域では絶滅が危惧されるといった場合、その地域では早急に対策が必要となります。
そのため、世界的な指標、国の指標、自治体の指標といったように、それぞれの規模で把握しておく必要があるのです。

レッドリストは、自然保護のプライオリティを考える上で重要な指標となります。
一般的なニュースでは、IUCNのレッドリストが知名度も高く注目されがちではありますが、「自分の身近でできることから行動する」ためにも、国内やお住まいの地域の自治体のレッドリストもぜひ一度ご覧ください。
意外な生物が絶滅の危機に瀕していることに気づくこともあると思います。

例えば日本固有種であるモリアオガエルは日本の広い地域で見られ、全体的に見ると絶滅の危機は低懸念といわれています。
しかし、奈良県では絶滅寸前の絶滅危惧I類、その他複数の県でも絶滅危惧Ⅱ類と記載されています。
地域での絶滅を防ぐことが種全体の絶滅を防ぐ最初の一歩となります。

参考:生物情報収集・提供システム
いきものログ(環境省)
https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/


絶滅危惧種は年々増加している

日本の環境省が現在選定している国内の絶滅危惧種は、3,772種(内56種は海洋生物レッドリストに記載)
種の生態が分かっており、計測、保全の方針が存在するこの種を中心に、生態系保全への足掛かりを見つける研究や活動が行われています。

レッドリストは、毎年更新されるわけではありません。
例えば環境省は約5年ごと、IUCNは1966年から2022年の最新版において、1年で更新されることもあれば、複数年後に更新されることもあり、期間は一定ではありません。

しかし、絶滅危惧種の数は毎回大幅に増加しており、その増加率は回を重ねるごとに増しています。

IUCNはこれまで15万種以上の種の生存状況を確認し、今後を予測しました。
2022年の最新版では、42,100種が絶滅危惧種に選定されています。


レッドリストのランクについて

レッドリストは以下のランクに分類されます。
このランクの変動が、生態系保全の状況を表す指標のひとつとなっています。

  • 【Extinct EX 絶滅種 絶滅】
    一度絶滅してしまったら、どこかに生き残った個体が見つからない限り、なす術はない。
  • 【Extinct in the Wild EW 野生絶滅種 野生絶滅】
    野生ではいなくなってしまったけど、保護センター等で飼育されている。
    野生で生きられる個体数まで回復したら、野生に戻されることもある。
    ここに分類されている種は、人間のサポートによって、次のレッドリストでランクが変わる可能性があります。国内には8か所の野生生態保護センターがあります。
  • 【Critically Endangered CR 近絶滅種 絶滅危惧I類】
    I類は絶滅寸前と評価された極めて厳しい状況の種です。
    3世代以内に個体数が80%減少した種のことを指し、その急激な絶滅進行を止めるには、特に私たちの積極的な判断も必要です。
  • 【- Endangered EN 絶滅危惧種 絶滅危惧IA類IB類】
    IA類はごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種、IB類はA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種を指します。
  • 【Vulnerable VU 危急種 絶滅危惧II類】
    「野生絶滅の高い危険性」がある種を危急種と指定しています。
  • 【- Near Threatened NT 近危急種 準絶滅危惧種】
    今のところは絶滅する危険性はないが、同じく絶滅の危険性のない低危険種と違って生息地の変化などがあると将来的に危急種に移行する可能性があると判断された種
  • 【- Least Concern LC 低危険種 (該当なし)】
    評価された時点では、絶滅のおそれもなく、近い将来絶滅に瀕する見込みが低い種です。

「絶滅危惧I類」が、本来の野生の状態で生物が存在する指標としては、最後の砦とも言えるラインです。
ここを超えてしまった種は、人間の手により人工的に増やす以外の方法がなくなり、大変な困難が伴います。もちろん繁殖に失敗すれば地球上から消滅してしまいます。

参考
WWF ジャパン
絶滅の危機に瀕している世界の野生生物のリスト「レッドリスト」について
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3559.html


まずは知ることから

レッドリストを眺めていると、その種の膨大さに、不安な気持ちになる人も多いと思います。
私たちにできることは少ないのでしょうか?

絶滅速度が急激に増加している原因は、現代の人間の活動が要因であると言われています。
そのリスクとなってしまった行動をただちに止め、持続可能な生態系に準拠した経済活動に変容する。現在の技術力をもってすれば、本来はそれほど難しいことではないはずです。

では、なぜこのような危機的な状況となり、遅々として改善、対応が進まないのか。
それは教育や知識が足りていない影響が大きいのではないでしょうか。

「環境も大切だが、人間の生活や安全が大切だから仕方ない」という声をよく耳にします。
しかし本来、SDGsや生態系保全は私たち人間の生活を守るためにも絶対必要なことなのです。

そういった正しい知識があれば、SDGsもNature Positiveも「地球のため」ではなく「自分たち、こどもたちのため」に取り組めるのではないでしょうか。

環境・社会・経済は一体であり、どこかに歪みがあれば、悪循環が起こります。
どれかひとつだけを守ることは不可能です。正しく調整すれば、好循環は必ず起こります。

全てはまずは知ることから。
レッドリストの存在を意識し、どのように保全活動が行われているのか、少しづつ目を向けていきましょう。

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