CLASS EARTH Interview

Nature Positiveへの想いを語っていただきました

2023/05/14

多様性のある健康的なファッション産業に一般社団法人unisteps

「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめる鎌田安里紗さんにお話しを伺いました。

一般社団法人unisteps 共同代表

鎌田 安里紗

1992年徳島市生まれ。モデルを始めたことをきっかけに、ファッション産業のあり方に関心を寄せる。2010年より、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。
2020年より一般社団法人unistepsの共同代表に就任。


全ての活動の拠点となるunisteps
小さな想いある作り手の方に多様な活躍の場を。

現在の活動内容を教えていただけますでしょうか。

一般社団法人unisteps(ユニステップス)という団体を4年前に立ち上げました。

「多様性のある健康的なファッション産業に」というビジョンのもと活動しています。

健康的なというと曖昧ですが、良い状態というのは一人の観点で決められないし、時代の価値観がアップデートされると当たり前だったことも変化していくと思います。
今の状態が健康なのかを常に問わないと、よくない状態がいつでも生まれてしまうので、自然環境、労働者、消費者、動物など、関わる全てのことが健康的なファッション産業がいいなと思っています。

「多様性のある」という言葉には、資本力のある企業だけではなく、インディペンデントな作り手も活躍できる産業であってほしいという願いを込めています。
例えば、サステナビリティに関する取り組みにおいても同じ「オーガニックコットン100%のTシャツ」でも、大企業と小さな組織では、1枚あたりの価格が全く変わってきてしまいます。同じオーガニックなら安い方がいいと値段だけで選ばれてしまい、思いある小さな組織が淘汰されてしまうのは残念なことです。

想いをもって目と手が届く範囲で丁寧に作ったものを買える喜びはすごく大きいと思っています。並行して、小さな作り手が多様なかたちで活躍している状態の方が好きだなと私たちは考えているので、どちらも推し進めたいという思いで運営しています。


これからのファッション産業のために。
unistepsの3つの活動軸

unistepsではどんな活動をしているのでしょうか。

3つの軸で活動しています。

1つが、企業や行政と一緒に取り組むジャパンサステイナブルアライアンス(以下、JSFA)という業界団体の事務局を務めさせてもらっています。JSFAは2021年夏に始まり、もうすぐ2年が経とうとしています。

大手の繊維メーカーさん、商社さん、アパレルさん、リサイクラーさんなど様々な業種のファッションに関わる企業さんが56社(2023年3月時点)いらっしゃいます。
団体設立時は11社から始まったので、今はすごく増えました。

業界の共通課題に対して、1社では解決できないことは何かというポイントを明らかにし、共同で解決策を導き出す、必要に応じて政策提言を行うなど、活動を続けています
環境省さん、経済産業省さん、消費者庁さんがパブリックパートナーとして関わってくれています。

2つ目が、「FASHION FRONTIER PROGRAM(ファッションフロンティアプログラム)」(以下、FFP)というファッションデザイナー向けのプログラムです。

とある研究によるとデザイナーが製品の環境負荷の8割を決めてしまうと言われているので、デザイナーの意識が非常に大事になってきます。

従来のデザイナーの評価は、クリエーションで美しいものや新しいもの、面白いものを生み出せるかというのが、1番の評価軸でした。
もちろんそこは変わらないのですが、プラスしてソーシャルレスポンティシビリティ(社会的責任)の視点がますます問われるようになってきています

そこでファッションデザイナーの中里唯馬氏を発起人として、2021年に設立したプログラムがFFPで、unistepsではこのプログラムの事務局を務めています。

 3つ目は、生活者、消費者の意識を変えるきっかけ作りとして、オンライン講座を提供したり、「FASHION REVOLUTION JAPAN(ファッションレボリューション)」の日本事務局を務めています。

ファッションレボリューションのきっかけとなったのは、2013年に起きたラナ・プラザの崩落事故です。バングラディシュにある複数の縫製工場が入居する8階建てのビルが崩落し、1,100人を超える方が亡くなりました。事故の前日にはビルの亀裂が指摘されていたにも関わらず、様々なプレッシャーから操業を止めることができず、サプライチェーンの中で弱い立場に置かれている生産者さんが犠牲になってしまいました。

その事故をきっかけに、「#whomademyclothes(私の服は誰が作ったの?)」とSNSで企業に問いかけるキャンペーンがヨーロッパを中心に世界中で起こりました。

日本は事故の翌年、2014年のキャンペーン開始当初から参加しています。

消費者から企業に気になることはきちんと聞くことで、企業側はものづくりのありかたを考えるきっかけになったり、コスパ重視が強い日本において、消費者も企業と一緒に適正価格を考えるなど、何か気付きになるきっかけがつくれたらと思っています。

今年はちょうど事故から10年になるので、改めてしっかりと社会にメッセージを伝えていきます。


親の学び続ける姿勢が子どもを成長させる。
安里紗さんの育った環境とは。

安里紗さんはお父様が環境関連の著名な学者さんでいらっしゃいます。
幼少期の教育について、非常に興味があります。ご家庭ではどんな教育を受けてこられたのでしょうか。

生まれは徳島で、里山のある自然豊かな土地で生まれました。
学校自体は小中高の普通の公立でした。

父は研究者で景観生態学の専門家です。母は博士課程まで研究をして、文化人類学を学んでいました。韓国の農村の研究をしていたそうです。

家庭では、親と子でありながらも、1体1の人間として関わるということが基本スタンスでした。私には兄がいますが「お兄ちゃん」と呼ばず、名前で呼んでいました。それは「兄」という役割を与えないよう、両親が気をつけていたそうです。

また、子供には話しても分からない、とは考えず、0歳であろうと、様々なことを理解できるという前提で接してくれていたそうです。

母も仕事で飛び回るタイプだったので、祖母が面倒を見てくれることも多かったですが、出張に出かける前には「お母さんは仕事が好きで、大切だから行ってくるね」と私たち兄弟に説明して出かけていっていたそうです。


常に自然が隣り合わせだった幼少期

里山のある自然豊かな土地で育ったということは、幼い頃の遊び場も自然の中が多かったのでしょうか?

出かける先はいつも自然でした。
大人になってから気がつきましたが、それは父の調査先に連れていっていたのだと思います(笑)
子供の頃はそれが純粋にお出かけと思って楽しんでいましたが、両親が行きたいこと・やりたいことと、子供が楽しいことが重なっていたのだとすれば、ハッピーなことですよね。

家で遊ぶ時も、庭で草木染めをしたり、実験的な遊びを楽しんでいました。
子供に合わせて時間を過ごすというよりも、両親も自分達にとっても楽しいことを提案してくれながら、その楽しさをシェアしてくれていたのだと思います。

やりたいことをやらせてもらってきたと感じていますし、親がやらせたいことを押し付けられたと感じたことはありません。

親が楽しそうって大事なことですね。
自然教育を受けたという意識はないのかもしれませんが、自然教育を受けた子どもは能動的でリーダーシップがあるという調査データがありますが、お話しを聞いてまさにそうだと思いました。


服作りの面白さと同時に見えてくる課題
服作りのプロセスを体験できるプロジェクト

消費活動においてまずは正しい知識をもつことが重要かと思います。
私たち消費者が正しい判断するためにはどう学ぶべきでしょうか。

今年で6年目になりますが、unistepsの事業とは別で、株式会社itonamiというチームと一緒に「服のたね」というプロジェクトをやっています。

私は高校1年生から渋谷109でアパレル販売員をやっていたので、どちらかと言うと服の最後の部分、売るところに関わっていました。
日本でファストファッションが主流化した時に、どんどん服の価格が下がりコスパ重視になっていきました。そこでこの服は一体どうやってできているのだろうと思い、ものづくりのあり方に疑問をもちました。

ファッションが好きで、興味があったからこその疑問ですね。

それから生産過程を見たくて工場に行き、そこで見た服ができるプロセスがすごく面白かったんです。糸を紡ぐところから、沢山の工程があって、多くの人が関わっていること、工夫や努力があってできているのに、お店ではそれが一切見えません。値札に書かれている情報は少なすぎると思いました。

そのプロセスの面白さを知らずに服を買うことは勿体無いないし、一方でその過程に課題もあって、それをどう伝えたらいいかなと考え始めました。

その後服が作られるプロセスを見るツアーをやっていたのですが、実際にツアーに行くのはハードルが高いし、講演会で伝えてもなかなか実感が湧かないという問題がありました。

そこでこのプロセスを体感できたらいいなと思い始めたのが「服のたね」です。

消費者が種から綿を育てるプロジェクトだと伺っています。

種まきから製品ができるまでは一年半くらいかかりますし、植物なので当然枯れてしまったり、虫の影響を受けたりなどトラブルもあります。

普段お店に服が並んでいると安定的に供給ができて当たり前と思ってしまいがちですが、実際に育ててみると、500円のTシャツすごすぎますね…と腹落ちできるんです。
消費活動の判断材料が増えることは、大きな学びになると思います。

素晴らしいご活動ですね。私たちCLASS EARTHが大人だけではなく、子ども向けに服育をやる理由も、未来の消費判断を変えていきたいと考えているからなんです。


いらない服は買わない。長く着られるものを選ぶ。
リユースの前に考えたいこと。
自分軸での選択を。

服の3Rは突き詰めるとすごく難しい。ファッションにおいてのリユースはどうお考えでしょうか。

リユースや二次流通の市場は広がりを見せています。ただ、古着に抵抗がある方もまだまだ多くいらっしゃいますよね。古着は、自分で価値を見極めなくてはならないことが楽しさでもあり、難しさであると思います。やはり「ダサい」と思われるのは怖いことですよね。だからこそ、雑誌やSNSで流行りをチェックして、これを着ておけば大丈夫、という買い物の仕方が多くなるのかなと思います。

よく、サステイナビリティとおしゃれは両立できないですよねと聞かれます。
その質問の背景にあるのは、いつも同じ服だとおしゃれじゃないということだと思うんです。

でも服を沢山持っているかどうかは関係なく、スタイルがあって、自分に似合っている好きなものを着ている人こそが本当のおしゃれなはず。それをわかっていれば、サステナビリティとおしゃれは矛盾しないと思っています。

リユース・リサイクルと称して企業が古着を集めて途上国に寄付することについても、悪循環が起こっています。

繊維の資源循環の現状として、リサイクルできないというのが、一つの課題です。
単一の素材であればリサイクルできるけど、流通しているほとんどが混紡。そのリサイクル技術は世界中探してもありません。
服を作る際、機能性を高める為の研究はこれまで活発に行われてきましたが、循環に向けた技術開発は途上。
作ったものを循環させることができないのが今問題の問題です。

リユースも国内でまわすには限界があるので、海外に輸出されるものも多くありますが、輸出後のトレーサビリティが担保されていないことも問題です。

まずは、手放す服を最小限にすること
本当に必要なものを購入して、ケアをしながら長く着ることができると良いと思います。

サステイナブル素材をいくら使っても、大量に作って余らせてしまっては、廃棄やリサイクルをすることになります。リサイクルをするにもエネルギーを使います。
CLASS EARTHは、そこに疑問をもって1着ずつ作るという判断をしました。でも環境負荷を下げる、循環させるだけでは足りないと思っています。

資源が枯渇しないようにするためにはどうしたら良いかというところからさらに進んで、どう人間が生態系に介入したら、自然をより良くできるのかという知見も溜まってきていますよね。

Nature Positiveを掲げるのであれば、売れれば売れるほど環境が良くなるものは何なのかを突き詰めて挑戦していきたいと思っています。

今までの負荷を少し減らしたものを「サステナブル」と喧伝して良いのかは疑問です。やればやるほど良くなる、という自然との関わり方を模索したいですね。
消費者側もそれを企業に聞けるリテラシーを持っている必要があると思いますし、発信する側も違いをクリアにしていく必要があると思います。

認証についても難しさを感じています。よく調べると認証マークがあるからと言って、環境に害がないものであるというものでもない。消費の指針とできる認証とは何だろうかとも考えます。

認証は入り口として有効だと思います。
消費者側も何を手がかりに買ったらいいか分からないと思うので、ファーストステップとして認証はいいと思います。
しかしもっと進める人はもっと進んでほしいなと思います。


CLASS EARTHの印象

気候変動に取り組む企業は多いですが、生物多様性に取り組む企業はまだまだ少ないですよね。今後より重要なトピックになっていくと思います。
CLASS EARTHさんのように、本当に環境のことを考えられてビジネスとして成功するような企業が増えてほしいと思います。

一般社団法人unisteps
https://biome.co.jp/

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教育 自然保護

Project WILD日本代表コーディネーター、一般財団法人 公園財団 開発研究部 環境教育推進室 室長

川原 洋氏