CLASS EARTH Interview

Nature Positiveへの想いを語っていただきました

2023/05/13

海、空、山、川は全て繋がっている。 香川大学 創造工学 末永慶寛氏

水産工学・海洋工学の専門家である、香川大学 創造工学部 教授・学部長の末永慶寛氏に海の生態系保全についてお伺いしました。

香川大学 創造工学部 教授・学部長

末永 慶寛

1964 年12 月山口県長門市出身。取得学位は博士(工学)。日本大学大学院理工学研究科、東京大学海洋研究所を経て、1996 年4 月より国立大学法人香川大学に勤務し、2009 年4 月香川大学工学部教授、2019 年10 月より香川大学創造工学部学部長就任、2022 年4 月より香川大学大学院創発科学研究科研究科長を兼務。
専門分野は水圏環境工学、水産工学、海洋工学。2007 年度、2017 年度、2019 年度に科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞


藻場の衰退。変わる海の環境。
これからの漁業のあり方とは。

海に囲まれた日本の中でも、瀬戸内海という場所を主に研究を続けて来られている末永教授は、これまで文部科学省の科学技術賞を複数回受賞された輝かしいご経歴をお持ちです。サステイナブルな漁業、水質改善に取り組んで来られた先生がお考えの『海の生態系の問題』を教えてください。

陸からの栄養の供給というものが年月をかけて変化しています。
以前は程よく栄養豊富な海でした。その栄養が過多になると、瀬戸内海では海の環境問題のひとつである赤潮が頻発して、漁業資源に深刻な被害が出ていました。
香川県は赤潮と戦ってきた、いわば赤潮との戦いの歴史を刻んできた県として位置付けられています。

最も多い時期に比べるとだいぶ赤潮は減ったと聞いています。

瀬戸内海環境保全特別措置法などの法律や規制が変わってきて、逆に海が綺麗になったということが言われています。しかし、漁業者の人は海を綺麗にしてくれとは言ったけど、魚を取れなくしてくれとは言っていないぞというような話になりました。
綺麗な海を求めるのか、あるいは豊かな海を求めるのか、理想は同時に成り立てば良いのでしょうけどなかなか難しいです。

「昔はこうだったのに」という、その昔のピークに戻すということがよく言われていますが、そのピークにたどり着かないくらい、色々なことが悪くなってしまっているのです。それに従って漁業資源も減ってきています。

何より海の生態系を支える基礎とも言える場所、海藻が生えている「藻場」がなくなってきてしまっています。これにより産卵場もなくなるし、隠れ場もなくなるし、魚介類が育つ場所がどんどん減っていったというわけです。
その原因は色々あるのですが、例えばインフラ整備のための海砂採取です。
しかし、これも人間の生活に必要なものですので、開発する側だけが一方的に悪いということにはならないと思っています。

そこで、私達の一番の海に対する任務は、開発する側とその生態系を保つ側とのところの落とし所、最適値をきちんと示す!これが我々の一番の任務だと思っています
色々ある中でやはり藻場が衰退してしまったというのが、生態系を一番狂わせた大きな原因になっていると思います。

そういった課題をどれくらいの方が認識していると思われますか。

漁業者の声は強いと思います。しかしその漁業者の数は年々減っています。
香川県に限らず、農業、漁業といった第1次産業が、本当に大幅な革命が必要とされる時代になってきています。これを第6次産業化と言っています。
それにこれまでの生物の生産方法、あるいは環境の保護方法等では追いつかない部分が出てきています。それこそAI等を使った、あるいはドローンを含めたインフォマティックスな技術を使った新たな農業のあり方、漁業のあり方が求められてきていると思います。

今までは1次産業に直接関わらなかったような業種の人達が、すごい力を発揮する可能性があるということですよね。

養殖についてはもう新しいあり方が問われてきていると思います。
天然の環境が今水温上昇に代表されるように、かなり生物層も多様性も変わってきています。それも、どちらも悪い方にいっているように思います。
将来的には、いかに陸上での海洋生物生産のサイクルを完結させることができるか、ということが求められると思います。

自然のエネルギーを活用し、海の生態系回復へ。

海の生態系を回復していくためのソリューションで着目されていることはありますか。

何かを開発して、ただ物を海に入れればいいというのではなくて、そこで展開される潮の流れや自然のエネルギーをうまく利用して、生物生態系の回復に繋がるように持っていきたいという研究をずっとしてきました。

実際に瀬戸内海は流れが卓越する海域なので、大きな川みたいなものです。
それが1日2回の満潮と干潮が繰り返されて、代表的な方向となる東西に卓越する流れが形成されます。その流れが島や沿岸の地形の影響を受けて、複雑な流れになって湾内に流れ込み、あるいは逆に流れがほとんどないようなエリアもできてしまいます。
そういったところで、その自然のエネルギーである潮の流れをうまくコントロールすることによって水温の上昇を抑えるとか、生物生態系にとって不可欠な海藻の胞子の着生を促すようなことに繋げていくことができたらと思っています。
そういった基礎的な部分から貴重なエネルギー源である潮の流れなどを利用する事が一つの解決策になっていくのではないかと考えています。

水温の問題にまでアプローチできるのは驚きですね。

水を混ぜるとある程度水温の制御は可能だと思います。ただお金をかけてハードな機械装置を使ってしまうと、莫大な費用がかかりコストパフォーマンスが合いません。そこで我々が着目したのが、「潮の流れ」である自然のエネルギーです。
それも機械装置を使わずにコントロールできるようにする工夫で、海の中の生態系の回復に繋がるのではないかと考えました。実際にその効果が出ている場所も複数あります。
もしその制御が追いつかないぐらい地球温暖化が進んでしまうと、また別の方法を考えなくてはいけないのですが…それこそ最終的に陸上で完結するしかないと思います。


森、川、海は繋がっている。
海の生態系バランスの崩壊を引き起こす海洋酸性化

先生のソリューションは、海の酸性化の問題にも繋がってきそうですよね。

カーボンニュートラルも含めて、やはり藻場がないと話にならないと思います。いかに藻場を増やすかですね。ここ50年で誰が見ても分かるくらい激減しています。

最近は海の酸性化のお話しで、甲殻類の殻の部分が溶けてしまったり、そこで餌になっていたはずの生き物がいなくなって魚が減ってしまったり、子ども達にとってもショッキングなニュースもよく目にします。

フルボ酸という鉄分の一種がありますが、昔に比べて全くなくなったと言ってもいいくらい、川からの供給ができていません。植物プランクトンのレベルから生産性が落ちているというのが一因にあげられます。
50年~100年のレベルでの森から川、そして海に繋がるという一連のシステムのうち、川からの供給を昔に戻すということが必須です。

瀬戸内海ですとどこから川の影響が大きいのでしょうか。

香川県側には、実はあまり大きな川はありません。
徳島県でしたら吉野川、岡山県側だと吉井川とか高梁川という大きな河川があるのですが、水門を開けるか開けないかで、瀬戸内海でも色落ちの問題が深刻な海苔養殖などに大きく関わってきます。
堰や水門をうまく海の生物にとって最適なタイミングで開けることによる、陸域からの栄養塩供給についても人的なコントロールを適切に行うことも重要になってくると思います。

陸からの栄養供給不足…
色落ちの問題が深刻な海苔養殖。

海苔もすごく減っていると聞きました。

海苔は色落ちの問題が深刻です。
普通はご飯に巻かれている黒いようなイメージだと思うのですが、黄ばんでいるような色になってしまっています。すると等級の悪いものになってしまい、生産者にとっては売れない海苔になってしまいます。

なぜ色が薄くなってしまうのでしょうか。

陸からの栄養が供給されてないからです。
もし陸からの供給が望めないのであれば、海の底は栄養が豊富なので、その下の栄養豊富な水をいかに海面付近まで上げられるか、海苔網まで届くようにしてあげられるかが重要になってきます。
これもやはり流れを制御できる施設、ハードな機械装置を使わずに流れを制御できる手法が求められています。

また、今、香川大学が独自で地元の小豆島の漁業共同組合さんや海苔業社さんと一緒にやっているのが、香川大学式海苔スカートというものを海苔の網にセットする方法です。
栄養源を畑に肥料をまくのと一緒で「施肥」という行為があります。
要は栄養源を人工的に海苔網に撒きます。しかし瀬戸内海で流れが早いところは、肥料をまいてもすぐ拡散してしまい、なかなか海苔に吸収されずすぐに広がってしまいます。
それを解決するために、人工的に肥料をまいたら、その肥料がなるべく長い時間海苔網の中に滞留するような技術を開発しています。

それはどういう原理なのでしょうか。

海面に枠があるようなイメージで、海苔の網が張ってあります。その張ってあるロープに海苔が育ちますが、そこに肥料をまくだけでは、潮の流れで枠の中から肥料が拡散してしまいます。
しかしその枠の下に、ビニールシートみたいなスカートを四方に履かせてあげます。ここへ肥料をまくと、スカートがあることによってトラップができます。
肥料がより長く海苔網の中に滞留できて、その間に海苔が肥料を吸ってくれるという単純なですが効果的な施設です。

すごく物理的なお話ですね。

このスカートで海苔網の中の流速が落ちることが計測でわかっています。滞留領域ができるので、より物質はその網の中に留まることができるということになります。


協力体制は組める。
サステイナブルな漁業へ向けて。

こういった新しいものをやってみようと思われる漁港や業者の方と、やらないという方で別れてしまわないでしょうか。

その通りです。しかし、もう死活問題ですので、何か方法はないかと皆さん思っています。
地元に香川大学があるからということで、一緒に挑戦してくださっている漁業者さんの存在は有難いことですが、これにもまた挑戦があります。
「香川大学の先生が言った通りにやったけど全然海苔が育たなかった」というのはある意味大学の存在価値が問われます。そういう訳にはいかないようにしないとと思っています。

香川大学があることによって、香川県のまわりの業者さんは前向きな方が多いのかもしれませんね。
しかし全国的には保守的な方も多く、新しいことに取り組んでもらうことが容易ではないという話をよく聞きます。どうすればサステイナブルな漁業に変革していこうという体制になると思われますか。

それこそ何か大ヒット技術が出れば一気に広まると思っています。
言い方がラフかもしれないですが、それくらい必殺技のない世界です。
小さい規模からでもいいので「これいけるんじゃないか」ということを、沿岸域の漁業関係者だけではなく、他の産業にも携わってらっしゃる人達にいかにアピールしていくかが大事になってきます。そうすれば協力体制は組めるのではないかと思います。


赤潮との戦いに希望の光が見えた夏

漁業者の方々との印象深いエピソードを教えてください。

20数年ほど前になりますが、香川大学に赴任して来て間もない頃、赤潮が出ているエリアに、生簀の配置実験を行いました。
当時は、生簀が設置してある現場を知らないまま、その配置だけ聞いて、香川大学の水理実験室で実験を行っていました。その実験結果を漁業者の人に持っていったら「地元のこと知らないはずなのに、この実験の赤潮の動きや分布は現場をよく再現している」と言うことで、この実験は役立つかもしれないという流れになりました。
その後、漁業者の人達が皆で大学に来て、水路の両サイドに並んで、色々な配置パターンで実験してくれ、次はこれで…といったようにすごく熱心に参加協力してくれました。それこそ死活問題ですからね。

すると、今まで赤潮で魚が大量に死んでいたにもかかわらず、そのシーズンは幸いにも被害が少なかったのです。そのため、香川大学の先生の言う配置パターンを実践したら、魚の死ぬ量が少なくて済むのではないかと考えていただけました。
今思い出しても胸を撫で下ろすような思い出です。

漁業者の方々と成功体験を一緒に積み重ねて二人三脚でやってきた体制があるから今があるということですね。

もちろんです。今後、今までできなかった新たな水理実験とか、AIやIOTのテクノロジーを使った新しい持続可能な漁業のあり方、生物生産技術の開発が求められてくると思います。
そして漁業者の人達の長年の経験は、またすごく貴重なものになっています。経験とテクノロジーを融合して、新たな6次産業化に繋げるという体制が理想的じゃないかなと思っています。


消えた幻の魚。
個体数回復へ向けた研究と技術開発

末永教授は様々な魚の養殖事業にも協力されていらっしゃいます。
赤潮以外で個体数が減った魚の生態系の回復をもたらした実績について教えてください。

キジハタ(瀬戸内地方では別名アコウ)という、貴重な魚がいます。
10年前くらいは全然採れなくなって幻の魚と言われていました。
何かに身を寄せてじっとしている岩礁性の魚の代表魚種です。
幻の魚と言われていいたくらい、日頃でも価格が高く、盆正月といえばそれは高価な魚でした。ところがその天然のキジハタがいなくなりました。
そこで瀬戸内海地域の水産研究所や自治体がキジハタの稚魚の人工種苗生産を始めました。
人工的に孵化させてそれを海に放流して増やそうという方法です。

ところが生産の段階で色々な壁があります。まず孵化させた段階で人工水槽の中でウイルスが発生したとします。するとせっかく育てた稚魚は何割か残るとかではなく全滅します。100%死にます。

100%死んでしまう…それはかなり厳しい状況ですね。

ウイルスをくぐり抜けて、海に放流できるまでの5cmくらいのサイズになったとします。
海に放流する前、実際の天然の海水に慣らすために、実際の海水の生簀の中に入れて、海水に慣らせる蓄養という段階があります。
その際に、実際の海水中の生簀の中で泳ぎ回るのではなく岩礁性の魚なので四隅で身を寄せてじっとしているんです。
そこで大きな波がきたときに生簀が大きく揺れると、キジハタはセンシティブな魚なので生簀の揺れでストレスを感じて死んでしまいます。ストレスを感じている稚魚は体が真っ白になるので、これはもう死ぬなというのが見てすぐに分かります。

生簀をピタッと止めることはできないけど、死なないというレベルまで揺れを抑える技術が必要になってくるわけです。
単純に生簀に入れては死ぬというのを繰り返していた業者さんが「揺れない生簀ってできるのかな」とボソッと言われた時に、「そんなのできるわけない」と言ってしまえば簡単なのですけど、いやいやちょっと待てと海を眺めていたら色んな周期の波があるわけです。それを見ていたら、もしかしたらできるかもしれないと思いました。
その揺れを抑制する技術で香川大学が特許を取得しています。

そう思えるところがさすがです。どのような仕組みで実現したのでしょうか。

例えば、ある長さの糸の先に重りがついた振り子があるとします。
振り子を揺らすと、揺れの周期ができますよね。海の波も様々な周期を持った波があるので、振り子の固有周期と波を抑える技術がリンクします。
それで振り子の固有周期を求める式を基にして、揺れを抑える装置を作りました。
実際それをつけてみると、稚魚が全部生き残るわけではないのですが生き残り数が違うのです。

それと、さらにその生簀に入って装置をつけたものと、つけないものの生簀の中の稚魚の肥満度にも差が出ました。何もしてない生簀はちょっと痩せ気味ですが、揺れが少ない方は肥満度が高い。こうなった時点で海に放流します。

最初に要望された機能は達成したのですね。

はい。しかし、海に放流できたからそれで終わりではなく、そこでもまた壁がありました。
例えば20万尾放流しても生き残りはわずか1%以下です。
20万尾も放流して、なぜそんなに残らないのか。
先ほどもお話しした通り、キジハタは何かに身を寄せる性質を持った、岩礁性の魚です。
陸上の大きい水槽の中に、大きいキジハタやカサゴなど大きい魚といれておくと、自ら大きい魚に身を寄せてしまうことがわかりました。天然を知らない稚魚なので、身を寄せる対象と思ってしまうわけです。
大きい魚達からすると労せずして最高の餌が向こうから近づいてきてくれるわけなので、パクッと1口で食べられてしまいます。それを見ていたら、いくら放流しても残らないと痛感しました。

新たな問題が見えてきたということですね。どのように解決したのでしょうか?

放流しても食べられないサイズまで育つ施設が、海の中に必要だということが想定できました。
そこで流れを制御できる構造物の中に稚魚を放流し、そこで餌が食べられ、かつ大きな魚にも食べられないサイズまで大きくなれる、シェルターとしての機能を持った人工魚礁を投入しました。
これは地元の伊吹島の漁協の人達と連携して10年くらいずっとやってきている事業です。
実際にキジハタの資源が増えてきており、最近は幻の魚ではなくなってきています(笑)。

当初の目的は達成したとえますね。

しかし、今度は漁獲量が上がってしまった為に値段が落ちてしまい、値段を元に戻してくれという新たな問題が出てきています。

なるほど。海洋資源としてみると、魚類の生態の研究だけではなく、経済に役立てるといった面での別の難しさがあるのですね。

これまで漁業者の皆さんと一緒にやってきて確実にキジハタを増やすことができました。
新たなチャレンジとして、値段を上げるには活きのいい状態での輸送・運搬が課題だと思います。センシティブな魚なので輸送・運搬のストレスで死んでしまうこともあるので、いかに生きたまま新鮮な状態で都市圏に届けるかという技術開発も求められています。


波の振動から得られるエネルギーを電力に

ひとつの研究から、別の開発に広がりが出てくることがよくわかりました。
他にも何か研究中の技術はありますか?

将来的には波のエネルギーを吸収する装置と一体型の生簀を作りたいと思っています。
今はまだ試作段階なので、既存の生簀に後付する方法を取っています。大きなU字菅のようなものが4つ付いていて、そこに波が入ってきてその装置の中で同調して波のエネルギーを減衰させるというものです。

振り子の原理で作られた生簀。青い部分が波を吸収する装置。
写真奥の人が乗っているものが従来の生簀。
(図1)末永教授 資料より抜粋

水が入ると水の柱ができます(図1 水色部分)。
中に入った水の柱の長さで、この装置の持つ周期が決まります。この装置の持つ周期と同じ周期の波が入ってきた時に、この装置の中で一番水の柱は動揺するのです。
ここの空洞の部分(図1 白い部分)で水が振動することによって、水の振動のエネルギーが空気のエネルギーに変わります。
白い部分から人間の目で覗き込んでいるとします。するとある時、ある瞬間一番ぶわっと風を感じる時があります。そこが一番この水が動揺している瞬間です。

説明を聞いて理解できましたが、波から風を感じるというのは、今まで考えたことがありませんでした。

この原理を使って将来的には、振動のエネルギーを空気のエネルギーに変えて発電することをやりたいと思っています。
例えば現状の生簀は海の上なので電源はありません。しかし、漁業者の人達は養殖している魚に餌を投げ込む施設が必要です。
波の振動から得られるエネルギーを、そういった給餌装置の電源に使うとか、あるいは監視のための電灯に使うといった程度の電力は確保できるのではないかというところまできています。

海上の施設で波の力で発電した電気を使うのであれば、送配電コストも削減できますし、二酸化炭素なども排出しない素晴らしい技術ですね!


魚類残渣の有効利用による環境改善

先生が主導して研究開発された、魚骨のプロダクトがあると伺いました。

香川県はご存知のように魚類養殖発祥の地でもあります。獲る漁業から、作り育てる漁業を最初に始めた県です。
養殖の生簀の中で立派に育った魚は、出荷する時に両サイドや骨をのぞいて市場に回します。
しかしその残った真ん中の骨のついた実の部分は、漁業者の人達がお金を出して産廃として処理してもらっています。

養殖発祥の地というだけあって、大量に毎日残渣が出ます。
お金を出して処分していた残渣を、何か使えないかということで大学の方で引き取りたいということになりました。
漁業組合の人達、特に婦人部の方に協力していただいてまずは煮沸し、身を取ってもらって骨の状態にしてもらいます。
その後、電気炉で500度だと黒くなって炭のようになってしまいますが、700〜900度で焼くと骨は真っ白になります。
これが実に環境改善に良い材料になってくれます。

ご存知のように人間の体の中にも骨あります。
イタイイタイ病、水俣病で代表されるような水銀や、カドミウムという有害な重金属については、体内に入ってしまうと、特異的に骨にくっつくという性質があります。それで公害病が起こってしまいました。
その原理と同じように、この骨の物質に、ヒドロキシアパタイトが生成されカルシウムが外れて、その代わりに別の金属がくっつく性質を利用します。

瀬戸内海だと閉鎖性の内湾*1が多いので、その内湾の奥側には一度物が入ったら出にくい環境でした。
つまり、悪いものが入ってしまったら泥の中に蓄積されてしまいがちな土地といえます。
実際に、周りに工場はないのに、海底の泥をとったら金属がすごく入っているという場所があるのです。

今まではこの金属の処理がうまくできませんでした。
色々な多孔質基質を設置したり、微生物の力を借りてやってみたりもしたのですが、金属の処理というのは難しいものでした。

そこで、有害な金属を吸着させるという効果に着目し、先ほどの真っ白に焼いた骨の成分をコンクリートに混ぜ、実際に海に設置し検証や実験を行っているところです。
魚類廃棄物の新しい利用法として、泥の改善や水質の改善に役立つ可能性を考えています。

養殖場の海底の問題を改善すると聞くと、とても大規模なことだと想像してしまうのですが、これがあれば廃棄物の再利用にもなりますし、コストの削減にもつながりそうですね。

*1アルファベットのV字型やU字型のような形状の湾


海の生き物を守るために私たちができること

私達消費者が海の生き物を守るためにできることを教えてください。

単純な言い方ですが、まずは海を汚さないことです。
目に見えるプラスチックからマイクロプラスチックまで、私達はチームを組んでずっと研究をしています。河口にプランクトンネットを仕掛けて、どれくらい川から微細なプラスチック類が入ってきているかも調べたりしています。
マイクロプラスチックは生物が摂取してしまうので、なかなか厄介な問題だなと思っています。

また、消費者は、レジャーなどでも小さい魚は取らないことですね。一人の数は少なくても、みんなが行えば数は大きくなります。
それを続けると親の代がなくなってしまいます。そういう小魚が育つ環境も海の中にもっと提供してやらないといけないのかなと思います。


CLASS EARTHの印象

Nature Positiveは非常に賛同すべきコンセプトだと思っています。
地球規模で一人一人が心得ていくべきことが網羅されているという印象を受けました。
これからも環境・地球資源の回復を目指して、協力・協働体制を構築できたらと思っています。

香川大学 創造工学部
https://www.kagawa-u.ac.jp/kagawa-u_ead/

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Project WILD日本代表コーディネーター、一般財団法人 公園財団 開発研究部 環境教育推進室 室長

川原 洋氏