CLASS EARTH Interview

Nature Positiveへの想いを語っていただきました

2023/05/23

環境や生態系の保全をビジネスに繋げる 株式会社バイオーム

楽しみながら私たち消費者も生物多様性保全に貢献できる。
培った国内最大級の生物情報データベースをもとに、企業や行政などとも連携し、生物多様性保全を加速させるため活動されている、株式会社バイオーム藤木庄五郎社長へお話しを伺いました

株式会社バイオーム 代表取締役CEO

藤木庄五郎

1988年生まれ、大阪府出身。京都大学院博士号(農学)取得。
位置情報システムと画像解析技術を専攻。大学時代に東南アジア・ボルネオ島で2年以上キャンプ生活をしながら調査を続け、衛星画像解析を用いた生物多様性可視化技術を開発。
「生物多様性の保全を社会の当然に」のビジョンのもと、2017年5月に設立。いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」の開発・運営を中心に「生物多様性情報」に特化した様々な事業を展開。経済産業省が認定する『J-Startup』、未来を創る35歳未満のイノベーター「Innovators Under 35 Japan 2021」に選出。


環境や生態系の保全をビジネスに繋げる。
生物多様性保全が当たり前の社会へ。

バイオーム様は、世界でも貴重な生物多様性のデータを専門に保持、研究、活用されていらっしゃいます。まずは御社のビジョンやミッション、コアとなるプロダクトなどについてお伺いできますでしょうか。

バイオームは、生物多様性の保全とビジネスの両立にチャレンジしているベンチャー企業です。
今後100年間で50%の生物が絶滅するのではないかと言われるほど危機が明白であるにもかかわらず、生物多様性の保全が遅々として進んでいません。
この背景には「環境を破壊することで儲かる」という経済活動のエネルギーがあると考え、この仕組みを逆転させ、環境を守ることで利益が生まれるような新しいビジネスモデルの創出を目指しています

ですが生物多様性の分野は定量化が非常に困難で、現状を数字で分析して仮説を立て目標を設定するといった、ビジネスにおける基本的なことさえもままならない状況が続いてきました。
そこでバイオームでは、様々な地域に生息する生物の情報をデジタル化して生物情報のプラットフォームを構築することをミッションに掲げ、全世界に40億台以上普及しているスマートフォンを観測拠点にして身の回りの生き物の写真を撮って集めていく『いきものコレクションアプリ「Biome」』を生み出しました。

アプリには生き物に詳しくなくても楽しめるよう、名前を判定する独自のAIが組み込まれていたり、投稿によるレベルアップ機能やSNS機能なども盛り込まれています。
これにより、環境保全を意識することなくゲームのような感覚で、楽しみながらいつの間にか生物多様性保全の基盤となるデータが集められるという仕組みを作っています。


日本でも注目されつつあるNature Positive
生物多様性を取り巻く世界の流れ

藤木社長は昨年12月に開催されたCOP15にも出席なさっていました。生物多様性保全を取り巻く世界の流れとして、NaturePositiveの理念のもとに30by30やTNFD、OECMsなどの目標や枠組みが次々と作られています。
実際に以前と比べて生物多様性の保全の重要性は高まっているように感じられますか。

国際的な潮流としてNaturePositiveが叫ばれ始めたことで、生物多様性を守る必然性に気付き、考える機会が増えた国は多いと思います。
COP15では日本政府からも立派なブースを設置して、大々的に取り組みをアピールしてしました。日本企業からの参加者も多く、感度の高まりを強く感じます
実際にCOP15後あたりから、そういった動きに触発された感度の高い企業や自治体からのご相談も一気に増えてきました。

生物多様性保全を進める際において、問題点ともなりやすい、先進国と途上国の温度差などは感じましたか?

途上国についても、行政サイドはかなりNaturePositiveに注目しているという印象を受けます。自国の豊かな生物多様性が活かせるチャンスととらえているのかもしれません。
一方で、経済的な発展を阻害する仕組みができてしまわないか警戒しているという面もありそうです。
Nature Positiveの取り組みが経済とコンフリクトしないように仕組みを練りこんでいかないと、世界中を巻き込んだ取り組みにすることは難しいでしょう。


楽しみながら生物多様性保全に貢献できる
いきものコレクションアプリ「Biome」

いきものコレクションアプリ「Biome」(以下「Biome」)の提供によって、具体的にはどのようなデータをどれくらい集められているのでしょうか。

「Biome」でユーザーの投稿から得られるのは、写真付きのリアルタイムな動植物の分布情報です。
いつ、どんな場所に、どんな動植物がいたのかという情報がアプリを通して写真付きで日々どんどんと集まっています。
もちろん保全上の観点から、アプリでは希少種の位置情報を非公開としたり、場所の特定ができないような配慮もしています。

ゲーム感覚で楽しみながら、生物のデータ蓄積に参加できる。
自分だけの観察図鑑を作る楽しみも。

誰でも使える無料のアプリとしてリリースしてから約3年半が経ちますが、生き物好きの皆様をはじめ、お子様とその親御様、毎日の散歩のついでに使ってくださるご年配の方々や、ふと見かけた生き物の名前が気になってアプリを手に取ってくださった方など、幅広いユーザーにご利用いただいて、現在アプリのダウンロード数は70万人を超え、420万件以上にのぼる生物の生息データを集めることができています。


生物多様性ホットスポットの日本だからこそ集まる、多種多様なデータ。
Nature Positive実現へ向けた企業支援にも注力。

日本という自然や生物多様性の豊かな国で膨大なデータを集め分析されていることは、大変有用な情報の宝庫かと存じます。今後、これをどのように活用していきたいとお考えでしょうか。

おっしゃる通り、日本は地形的に天候の幅が広く、大陸と地続きでなくなって久しいことなどから植物の固有種や在来種の数が多い国で、生態系を守っていくべき生物多様性のホットスポットにも選ばれています。日本の事業者の皆様には、そのことをもっと意識して事業活動に取り組んでほしいと思っています。

現在は、アプリを通じて日々リアルタイムの生物分布データが大量に集まってきているので、このデータをぜひ活用してほしいです。
これまでは、得られた情報を基礎データとして研究機関にご提供することもしてきましたが、これからはデータの分析および解析を通じて事業者のTNFDやOECMの取り組みを支援することに注力する予定です。

事業における生物多様性の重点エリアを割り出したり、生物の出現予測などを行って適切な計画を作成する支援も行うことが可能です。希少種保全だけでなく、外来種の防除にも活用するなど、様々な切り口でNaturePositiveを実現したいです。
今後、様々な企業や行政などとも連携しながら活用の幅を拡げ、より貢献度を高めていきたいです。


環境に応じて変わる生態系。
海外展開を視野に、進化し続ける「Biome」

リアルタイムな生物分布データということで、環境に応じて日々変化している生態系に対してはデータベースのアップデートも必須と承知しております。今後一層広い地域で、より多くのデータを集めるために、どのような計画をお持ちでしょうか。

「Biome」はユーザーの皆さんにゲーム感覚で楽しんでもらっていたり、出会った生き物の記録やライフリストのようにご活用いただいていることが多いので、今後も生物多様性の保全という観点を忘れずに、より楽しんで投稿を続けていただけるよう、新機能などを盛り込みながらアプリをどんどん発展させていきたいと考えています。

また生態系は環境に応じて変わります。今後は国内にとどまらず世界中のデータを集めることを計画してます
そのためにアプリの多言語対応や海外の動植物データベースの整備など、海外展開の準備を順次進めているところです。

生物を捕まえたり、採取することなく写真だけで記録できるので
ヘビーユーザーからライト層、大人から子どもまで幅広く参加しやすい。

環境は待ってくれない。買い物は投票。
私たち消費者ができる行動と、今こそ企業としてNature Positivと向き合うべき理由。

いま私たち一般の消費者ができること、企業としてできることを教えてください。

環境や生き物を守る団体の活動に参加したり、寄付をしたり、CLASS EARTHのような寄付付きのアイテムを選んだり、もちろん「Biome」に近所や旅行先で出会う野生生物を投稿するなど、保全に向けてできることはたくさんあります。
最近は、企業から色々なご相談を受ける中で、特に消費者の購買行動が大切だと感じています。選挙で政治家を選ぶのと同様に、購買は一種の投票だと思います。
環境に良いものを買う、ということをみんなが徹底していけば、環境に配慮している企業が報われる、健全な社会になりますし、企業が環境に良い商品をこぞって開発するようになれば素晴らしいことだと思います。消費者としては、自分たちが持つ投票権を活用しない手はないと思います。

一方で、企業については、NaturePositiveを事業機会としてとらえる柔軟な発想が求められると思います。
世界的な消費者意識の変化に伴い、Nature Positiveを事業活動に取り入れていくことは明確な差別化要因になりますし、カーボンニュートラルのようにマーケットへの参加チケットのような扱いに今後なっていく可能性もあります。
今の生物多様性の危機的な現状を鑑みて、今後、NaturePositiveの潮流が拡大・加速することは明白です。ルールができてから慌ててとりくみを始めるようでは、世界のスピード感についていけませんし、無理な体制変更で大きなコストを強いられるリスクもあります。
今の段階から着実に体制を整えていくことが大切です。生物多様性の保全に事業者としてきちんと向き合う時がきているのではないかと思います。

バイオームとしては、地球の未来のため、一般の皆様には楽しみながら長く生物多様性保全に取り組んでもらえるようなサービスを、企業にはもっとNaturePositiveを推進してもらえるようなビジネスに寄り添ったサービスをこれからも作り続けていきたいと考えています。


CLASS EARTHの印象

バイオーム様とCLASS EARTHの事業とは「ポジティブに伝える」という面で繋がる部分があると勝手ながら感じています。CLASS EARTHの印象を教えてください。

CLASS EARTHがブランドとして、生物多様性を守ることを憧れの行為、楽しい行動にしたいという点に特に魅力を感じました。Nature Positiveな取り組みが「義務」でやっかいなもの、と思われてしまっては今後うまく取り組みが進まなくなると思います。

そうではなく、楽しく、自慢できてしまうような、そんな取り組みだと認知されることが何より大切です。そのための活動をCLASS EARTHさんがなされようとしていることがとっても素晴らしいと感じています。
私たちも、生態系保全はNPOさんやボランティアの方々だけのものではなく、参加型にしたくてBiomeを始めたのもあります。これからも生物多様性を回復させるために一緒に頑張りましょう。

株式会社Biome
https://biome.co.jp/

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教育 自然保護

Project WILD日本代表コーディネーター、一般財団法人 公園財団 開発研究部 環境教育推進室 室長

川原 洋氏