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2023/10/10

世界農業遺産と日本の茶畑復興

世界農業遺産とは

世界農業遺産(GIAHS)とは、持続可能な農業と伝統的な農業システムの保護・発展を目指し、国際連合食糧農業機関(FAO)によって認定された、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域です。

世界農業遺産は、2023年現在、世界で24ヶ国78地域、日本では15地域が認定されています。
世界でも日本は大変認定地域が多く、中国の19箇所に次ぐ世界2位の認定数となっています。

今回は日本の世界農業遺産について考えてみたいと思います。


<国内の世界農業遺産認定地域一覧> 
※括弧は認定年

  • 東北
    • 宮城県大崎地域 「『大崎耕土』の巧みな水管理による水田システム」 (2017)
  • 関東
    • 埼玉県武蔵野地域 「大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法」 (2023)
    • 山梨県峡東地域 「峡東地域の扇状地に適応した果樹農業システム」 (2022)
    • 静岡県掛川周辺地域 「静岡の茶草場農法」 (2013)
    • 静岡県わさび栽培地域 「静岡水わさびの伝統栽培」 (2017)
  • 北陸
    • 新潟県佐渡市 「トキと共生する佐渡の里山」 (2011)
    • 石川県能登地域 「能登の里山里海」 (2011)
  • 東海
    • 岐阜県長良川上中流域 「清流長良川の鮎」 (2015)
  • 近畿
    • 滋賀県琵琶湖地域「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」(2022)
    • 兵庫県兵庫美方地域「人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム」(2023)
    • 和歌山県みなべ・田辺地域 「みなべ・田辺の梅システム」 (2015)
  • 中国・四国
    • 徳島県にし阿波地域 「にし阿波の傾斜地農耕システム」 (2017)
  • 九州
    • 熊本県阿蘇地域 「阿蘇の草原の維持と持続的農業」 (2013)
    • 大分県国東半島宇佐地域 「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」 (2013)
    • 宮崎県高千穂郷・椎葉山地域 「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」 (2015)

農林水産省:世界農業遺産・日本農業遺産認定地域
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_3.html


湿地帯を保全する目的の「ラムサール条約」では、水田が湿地として定義されています。

日本の世界農業遺産と生物多様性へのプラスの影響

FAOが定める5つの認定基準*1がありますが、日本の世界農業遺産において、今回特に注目した点は下記の2つです。
1つは文化的価値。伝統的な農業技術や知識、文化が世代を超えて伝えられます。
そしてもう1つは、生態系の保全につながっていることです。伝統的な農業が多様な生態系を維持し、生物多様性を保護します。

人の手によって維持管理されている日本の里山は、草原性の動植物を中心に豊かな生物多様性を支える環境として価値が高いと認められています。
一見、人の手が入っていないほうが自然には良いように思われますが、実は適切な管理がなされた環境のほうが多様性を育むということが知られています。
自然のままにすると木々が生い茂ってしまいますが、農業による半自然草地が維持されることにより、日照が増大し、多様な生態系が生まれます。

果樹園や田園、茶畑などの農地はもちろん、農地に必要な周辺のため池や用水路などの水辺は直接的な生息環境にもなりますし、大崎耕土のように冬の農地もマガンなどの越冬地として重要な役割を果たしたりしています。
また、日本では里山と里海といったように、山と海は繋がっているという意識を持ちやすい文化形成がなされてきました。

世界農業遺産は私たちが持つ豊かな文化と生態系の宝であり、それを次世代へと引き継ぐ手段となります。

*15つの認定基準:食糧及び生計の保障、農業生物多様性、伝統的な知識の継承、文化・社会的価値、ランドスケープ及びシースケープの特徴 
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1_1.html


生産物以外の植物を活かす農法も多く、多様な生物を育む日本の伝統的な農業

日本の茶畑の特徴と生物多様性

そんな大切な農業の中でも、日本の茶畑について、とても重要な農業の一つであると私たちは考えています
言うまでもなく「日本茶」は世界に誇れる「日本の文化」の一つです。茶畑に多い特異な地理と気候、そして農業技術から独自の茶文化を生み出しました。

世界農業遺産でもある静岡県掛川周辺地域の「静岡の茶草場農法(ちゃぐさばのうほう)」はススキやササを主とする刈敷きを行う伝統的農法で、お茶の質が良くなるという効果があります。
刈敷きとは、畑に草を敷き詰めて腐敗させ、肥料として土に鋤き込むことで、農作物に必要な栄養を土に蓄える農法ですが、敷き詰めた草は昆虫の生息場所としても作用します。
さらに、この刈敷きのためのススキを確保するための茶草場が茶畑とモザイク状に混在することで、生物多様性にも大きな効果が生まれます。


日本茶生産の現状と課題

しかし、高齢化による後継者不足や気候変動消費市場の変化、また茶畑は傾斜地が多く機械化し辛い農地であることから、年々茶農家は減少しています

茶葉の消費は減少しています。しかし、茶飲料の消費は伸びており、一概に消費減少であるとは言えません。
日本茶は一定の価値があり、日本の人々の生活にはまだ強く根付いていると言える今、お茶の魅力を再認識し、保全を勧めていくべきではないでしょうか。

さらに、米国などでの日本食ブームの影響で、緑茶の輸出は10年間で約2倍に成長しています。
国緑茶飲料向けとして一時期輸入量が極端に増加しましたが、国産割合が高まったことにより輸入量は減少、現在は3~4千トンで推移しています。

世界にも誇れる日本茶。
茶畑を保全する取り組みは、持続可能な地域の発展とともに、生物多様性の保全も同時に可能です。
茶畑の復興のためには、伝統的な知識と新しい技術を融合させ、独自の茶文化を世界に発信することも重要ではないでしょうか。

データ出典:
茶をめぐる情勢 – 令和5年8月農林水産省(PDF)


私たちが「絶滅危惧茶」プロジェクトで目指すもの

日本茶の中で、生産者があと数名というお茶や、生産環境の変化により絶滅の危機に瀕するお茶が存在します。
私たちはそんなお茶をピックアップし「絶滅危惧茶」として販売するプロジェクトを始めています。

茶道は五感のトレーニングとして最も有用な手段の一つとも言われます。
当社では、茶道の習得も福利厚生に含まれますが、お作法の内容や意味を知っていることで、楽しみ方や価値が何倍にも広がり、ビジネスシーンにおいても良い影響をもたらします。

自国の文化を深く知っているということは、国際的なコミュニケーションの場では大変価値のあることです。文化や教養のある会話は品格や知性を感じさせ、相手との話題をさらに広げ、信頼を得る種ともなり得ます。
世界に誇るべき日本の文化を日本人が知らないのは機会損失であり、 グローバル化が急激に進む今だからこそ、海外の文化を知るのと同等に、日本の文化の知識も大切にしてほしいと願っています。

さらに、絶滅危惧茶を通して、日本の農業における社会課題を学び、解決に向けて共に考えていくことを目指しています。

プロジェクト詳細については是非こちらからご覧ください。

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