2023年版IUCNレッドリスト、過去最多の絶滅危惧種と保全活動による希望
2023年12月11日、国際自然保護連合(IUCN)は、アラブ首長国連邦のドバイで開催されている国連の気候変動会議COP28において、絶滅のおそれのある野生生物の「IUCNレッドリスト」の最新版を発表しました。
気候変動会議でレッドリスト最新版が公開されたのは今回の2023年版が初めてです。気候変動が生物多様性と相互に影響し合い、危機的状況であることは、世界の共通認識となりました。
2023年版では、15万7,190種が評価され、そのうちの28%、約4万4,000種以上の生物に絶滅の危惧があると発表されています。
IUCNレッドリストは、「生命のバロメータ」とも言われ、現在評価済みの種は157,190種。目標の160,000種まで残り2,810種。
世界の野生生物の現状を把握するための重要な指標で、保全が必要な種を特定し、どの種に保全のリソースをさくべきかを判断する材料として活用されています。
2023年に公開されたレッドリストの絶滅危惧種は過去最大であり、この結果は、人類の活動が野生生物に深刻な影響を与えていることを示しています。
地域ごとの絶滅危惧種数 (※2023年度版IUCNレッドリストより引用)
世界地域ごとの絶滅危惧種数(CR/EN/VU)
- 南極 (53)
- カリブ海諸島 (1618)
- 東アジア (2184)
- ヨーロッパ (2986)
- メソアメリカ (3931)
- 北アフリカ (513)
- 北アメリカ (2051)
- 北アジア (415)
- オセアニア (4796)
- 南アメリカ (8714)
- 南東アジア (8149)
- サハラ以南アフリカ (10835)
- 西・中央アジア (1516)
東アジア各国の絶滅危惧種数(CR/EN/VU)
- 中国 (1537)
- 香港 (125)
- 日本 (634)
- 朝鮮民主主義人民共和国 (136)
- 大韓民国 (217)
- マカオ (34)
- モンゴル (52)
- 台湾 (452)
日本の絶滅危惧種数(※2023年度版IUCNレッドリストより引用)
2023年版IUCNレッドリストでは、日本の絶滅危惧種は634種となっています。
その中でも最も深刻な危機とされる「CR(Critically Endangered)」は86種。その中でも植物と魚類が多く占めています。
また、日本の環境省が選定する第4次レッドリスト(2012年度)では、絶滅危惧種は合計で3,772種にものぼります。
以前のJournalでも取り上げた通り、日本は海に囲まれ、元来ユニークな生態系を持っていたにもかかわらず、多くの種の生き物が絶滅の危機に瀕してしまった「生物多様性ホットスポット」と言われ、世界からも生物保全の重要なエリアとして認識されています。
絶滅危惧種の問題は決して遠い地域の話ではなく、身近なところからネイチャーポジティブへの意識を向けていく必要があります。
日本国内の絶滅危惧種数(CR/EN/VU)(※2023年度版IUCNレッドリストより引用)
- 北海道 (13)
- 本州 (83)
- 火山列島(硫黄列島) (2)
- 九州 (33)
- 南鳥島 (1)
- 南西諸島 (103)
- 小笠原諸島 (41)
- 四国 (24)
IUCN Red List of Threatened Species
https://www.iucnredlist.org/ja
環境省:レッドリスト・レッドデータブック
https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/redlist/index.html
CLASS EARTH Journal:日本は生物多様性ホットスポット
https://class-earth.com/journal/biodiversity-hotspots/
世界の淡水魚種では気候変動の影響が顕著に。あの馴染みの魚も。
今回のレッドリストでは、評価対象となった淡水魚14,898種のうち、25%が絶滅の危機に瀕していることが明らかになりました。また17%は気候変動の影響を受けているとされています。*1
私達が特に注目したのは「タイセイヨウサケ」で、「アトランティックサーモン」と聞くと馴染みのある方も多いのではないでしょうか。日本のスーパーでも普段から目にすることがあるサケです。
この種はなんと、2006年から2020年までのたった14年の間に個体数が23%減少したことが明らかになっており、絶滅の脅威にないという低懸念「LC(Least Concern)」から、準絶滅危惧「NT(Near Threatened)」に上げられました。
淡水と海洋の両方を長距離移動し生息する魚のため、気候変動は大西洋サケの生活サイクルのすべての段階に影響していることも原因の一つとされています。
スーパーに並ぶものはほとんどが養殖ですし、今のところは絶滅する危険性はありませんが、何も対策が取られず、気候変動や水質汚染などが進むと野生絶滅の高い危険性に移行する可能性があります。
また、本来は生息していない地域で養殖が行われ、逃げ出した魚が在来の生物環境に悪影響を与えたり、高密度で飼育することで海水や水の汚染が発生してしまうなど、現状では養殖は様々な問題を抱えています。
養殖については、水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理する適切な養殖生産を推進するためのASC認証なども広まっています。
食卓でも馴染みのある生物が絶滅の危機にあると考えると、今までネイチャーポジティブに対してピンと来なかった方にも、身近な問題として捉えるきっかけになるのではないかと思います。
日本の環境省によるレッドリストや、お住まいの地域の地方自治体のレッドリストも一度目を通してみることをおすすめします。
環境省いきものログ:レッドデータブック
https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/
個体数の増加でカテゴリーが下げられた種も
ネイチャーポジティブとは、種を絶滅させず、個体数を回復させること。
レッドリストのカテゴリーでいうと、より緊急性の低いカテゴリーに移動させていく必要があるということです。
例えば地域社会の保全活動の影響から、アジアのコウノトリの3種が絶滅の脅威がより低いカテゴリーに下げられています。特にインドのアッサム州では保全活動を行う中で女性たちの生活もより良く変容し、他地域への啓発活動も盛んに行われるようになってきています。*1
日本でもコウノトリの保全活動は活発であり、国内ではランクを下げる検討も行われています。
その他アフリカのシロオリックス(Oryx dammah)は保全活動により、野生絶滅「EW(Exrinct in the Wild)」から危機「EN(Endangered)」に下げられました。
カザフスタン、モンゴル、ロシア、ウズベキスタンに生息するサイガアンテロープ(Saiga tatarica)も深刻な危機(CR)から準絶滅危惧(NT)に下げられました。
どちらも密猟や気候変動による影響をうけて個体数が激減しましたが、政府や地域コミュニティによる活発な保全活動により個体数が回復しつつあります。*2
どの種もまだ安心はできませんが、危機的状況の中で保全活動の効果が確実に出ているケースとして、ネイチャーポジティブへの希望になることは間違いありません。
*1参考:Freshwater fish highlight escalating climate impacts on species – IUCN Red List
https://www.iucn.org/press-release/202312/freshwater-fish-highlight-escalating-climate-impacts-species-iucn-red-list
*2参考:The 2023 Red List update reveals hope for birds in crisis
https://www.birdlife.org/news/2023/12/12/the-2023-red-list-update-reveals-hope-for-birds-in-crisis/