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SDGsやNature Positiveに関するトピックなどをお届け

2024/12/18

大阪・関西万博での活動について

2025年4月13日、大阪・関西万博が開幕します。
私はいちスタッフの立場としてこの2年活動していますが、万博のサステナビリティについては、課題感を抱いています。


大阪・関西万博とNature Positive

例えば、今回の万博の象徴となっている、藤本壮介氏がデザインした世界最大級の木造建築となる大屋根リング。
とても楽しみな反面、素材となる木材は外国産が多く使われていることはとても残念です。

CO2の排出量の高い外国産の木材を輸入した理由は、コスト以外思い当たりません。
昨今の日本の深刻な林業問題を鑑みると、日本には使うべき木材が豊富すぎるくらいにあるはずです。また、間伐が必要なエリアも関西に多く存在します。

針葉樹から広葉樹に変えれば、森の豊かさが改善し、保全できる動植物も増え、再生林になることで、CO2の吸収率も向上します。
万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを掲げていますが、「生態系を回復させる大きな木造リング」という要素が含まれなかったことは残念に思います。

このようなNature Positiveに貢献する建築仕様は、当然検討されたかもしれませんが、結果的には実現しませんでした。これは誰の責任なのでしょうか。
私は建築家を批判するべきではないと思っています。

また、海外パビリオンの縮小出展があり、空きスペースが発生しました。
このエリアの新たな利用方法が検討され、その結果はまさかの人工芝の採用でした。
しかも生分解性の素材でもありません。

万博会場は、大阪湾の中にある大阪の夢洲(ゆめしま)。海の上です。
人工芝の海洋マイクロプラスチック問題は、東京湾で話題となってから年月も経っているにも関わらず採用されたということになります。それはなぜなのでしょうか。


メディアの影響

このエリアの仕様策定が進んでいた頃、万博はさまざまなメディアにて予算問題、工期問題が殊更に取り沙汰されていました。
予算の増加も遅延もこれ以上許してはならないという世論。
一方で、環境問題の話はほとんどメディアに出てきません
その結果、予算、工期を圧縮するために、環境負荷対策の優先度を下げ、空いたスペースでは人工芝が採用されたとも言えます。

このような状況にさせたのは、日本の社会全体の焦点、世論の作り方ではないでしょうか。
インターネットが主流となりつつなるメディアは、ワンクリックを稼ぐことが利益となり、閲覧者が思わず開きそうなタイトルが画面上に並びます。
しかし、環境問題を取り扱う記事は誰も開かないのが現状です。
そこにしわ寄せが来るのは当然の流れなのではないでしょうか。


万博は必要なのか

さらに万博という場が、今の時代に必要なのかという論点もあります。
私は少なくとも子ども達の教育においては、非常に有意義な場所であると信じて取り組んでいます。
むしろ、その一点においての価値だけでもやる意義があると考えています。

現在の日本の子ども達の体験環境は、都市においてより限定的です。
自然が周りに少ないだけではなく、四角いデバイスに時間を奪われています。能動性や協調性を育み、五感を通して、ソーシャルキャピタルを醸成する環境を得られるかは、親の先行した考えや努力、資金力が必要です。
そのような社会環境から、子供たちの教育格差は大きくなっています。

万博は、あらゆる国が一堂に会し、自分の国の可能性、魅力を体験型で発表する場です。
修学旅行などの機会で活用することで、家庭の環境に左右されず、世界にはさまざま国があるということを、画面ではなく体感して学ぶことが可能です。


万博における日本

前回のドバイ万博では、日本のパビリオンは1、2を争う人気館であったことをご存知でしょうか。
その人気の理由は、最先端技術ではありません。「文化」の一点です。
日本のパビリオンは、今回の万博でも豊富な文化資源を発信し、多くの日本人にとっても未知の体験をもたらせてくれることだろうと思います。

世界を一周したかのような不思議な1日、そして日本を誇りに思える日を過ごせるのは、子ども達のこれからの人生において、とても大きな糧になるはずです。

そのために、私たちCLASS EARTHは本万博の中核事業であるテーマ事業、シグネチャーパビリオン『いのちめぐる冒険』に従事し、SDGs監修、PR、協賛者対応、ユニフォーム企画などを担当しています。
それぞれが一見、相反する仕事のように思えますが、先程述べた価値が根底にあるからこそ、「この判断は子ども達の学びに貢献できるか否か」という軸で考え実行しています。

『いのちめぐる冒険』パビリオンは、カメラ付きVRゴーグルを使い、個人での「没入感」と来場者全員の「一体感」を行き来する『超時空シアター』で、宇宙スケールの食物連鎖を体感します。
その他の展示も全て、生物多様性の重要性、面白さ、美しさ、希少性、様々な要素に触れることができる設計を目指して準備しています。

スタッフのユニフォームは、GOTS認証のオーガニックコットン100%のTシャツ、かつ着物のパターンを応用した生地ロスが少ないデザインを採用しました。
アテンダントユニフォームは、再生ポリエステルながら、洗濯時のマイクロプラスチックを排出しにくい長繊維の素材を使用し、学校制服の老舗メーカー・明石スクールユニフォームカンパニー社の協力により、岡山県倉敷市児島で生産中です。

オーガニックコットンを使用することは、ブルーウォーターの使用を大幅に削減します。また、化学繊維のマイクロファイバー対策は海洋汚染の軽減に繋がります。
流通している洋服の70%も締める化学繊維が、家庭の洗濯で海洋マイクロプラスチックに大きな影響をもたらしていることも、ほぼ認知されていないのが現状です。
万博という機会を通して、世界共通で認識しなければならない事実と解決の糸口を未来デザインとして発信したい
と思っています。


協賛者との活動

協賛者対応についても、基本的な発想は同じです。
当パビリオンは、幸いにも生物多様性の保全の重要性に理解が深いパートナーに恵まれました。
そんなパートナー企業と共に、いきものコレクションアプリを展開するバイオーム社の協力の元、世界最大の市民参加型生態系調査「いきもの探しはデカルチャー!」を行なっています。

現在すでに約200万件のデータが集まってきており、万博会期終了までに1,000万件を目標に協賛パートナー各社と一丸となって取り組んでいます。
生物多様性は、CO2のように世界共通の手段で対策することは不可能であり、その土地に合わせた対策が必要です。
しかし、圧倒的にその前提データが少ないことが大きな課題です。
本企画を通して得られたデータは、どのエリアでどのような対策をするかという保全計画に活かされる予定です。
生物多様性の回復・Nature Positiveに向けた具体的なアクションで、子ども達の未来に確実に貢献できる企画となっています。



万博はさまざまな報道がされており、賛否両論あるのは承知しています。
しかし、私たちが責任を持てる範囲では、揺るぎないレガシーを打ち立てたいと考え、協賛パートナーと共に推進し、国と企業と市民の共創の事例となることを目標として取り組んでいます。

未来社会を生きるのは子ども達。
子ども達にとって大きな学びの体験の機会となっているか、そして運営にまつわる全ての判断が、環境にも適切な配慮がなされているか、1人でも多くの人に見守ってほしいと思います。

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