生物多様性とは。3つの多様性レベルと5つの損失要因
今現在、地球存在する生き物は、名前も付かない種も含め、800万種とも3000万種類とも言われています。
その数は急速に減少し、絶滅危惧種が急速に増加しています。
地球上の生き物は、あらゆる個性がネットワークのように相互に影響を与えながら生きています。生物は様々な環境の中で変異し、環境に適応したものが生き残っていく進化の過程で、多様な生きものが生まれました。
IPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)*1は、現在世界で100万種の動植物が絶滅の危機に瀕し、ネイチャーポジティブ・生物多様性の回復が進まなければ今後数十年間でその多くの種が絶滅すると警告しています。
*1
IPBESとは、2012年4月に設立された日本を含む約130か国の科学者などで作る政府間組織。科学的な知識を政策立案に結びつけることで、生物多様性の喪失や生態系サービスの重要性に関する問題に対処することを目的とする。
https://www.ipbes.net/
Media Release: Nature’s Dangerous Decline ‘Unprecedented’; Species Extinction Rates ‘Accelerating’
https://www.ipbes.net/news/Media-Release-Global-Assessment
生物多様性の3つのレベル
生物多様性条約*2において、「生物多様性」とは、以下の3つの異なるレベルでの多様性を包括しています。
1.生態系の多様性(ecosystem)
山、川、海、空が繋がっているように、森林、草原、河川、湿地、海岸、海底など、生き物の様々な環境も相互に影響。森林伐採は森林だけに止まらず、河川の汚染は海にも直結します。
2.種の多様性(species)
我々哺乳類はたったの0.3%。分類学上、魚類を入れても脊椎動物は3.5%。昆虫は全体の約50%。その他植物や菌類など含めてIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに登録されている種は213万種。(同じ種でも別の国で別の種として登録されてしまっている種が20%程度あるという説もあります。)
3.遺伝子の多様性(genetic)
私たちホモ・サピエンスがそれぞれ違う顔、違う能力を持つように、前述の同じ種であっても、個体ごとに異なる遺伝子を持ち、模様や形、生態に個性があります。
このように異なるレベルでの生物多様性が作用しながら、多様な環境で多様な生き物が生活しています。
生態系に支えられて、私たち人間は食事ができ、水が飲め、呼吸ができる。
そういった人類の利益になる生態系の機能は「生態系サービス」とよばれ、自然界からの恩恵を経済換算すると33兆ドル*3とも言われています。
*2 生物多様性条約とは
地球上の生物多様性の喪失や生態系の劣化といった課題に対処するための国際的な法的枠組みです。1992年6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で、条約に加盟するための署名が開始され、1993年12月29日に発効しました。
*3 生態系の経済的価値評価の25年間 – Nature ダイジェスト
生物多様性が失われる原因
ではなぜ今、その生態系がバランスが壊れ、生物多様性が損失しているのでしょうか。
生物多様性が失われる原因としてIPBESは、世界規模で以下の5つを重要なファクトとして挙げています。
1.陸地と海の利用の変化(Changes in land and sea use)
森林を開拓してパームオイルを作ったり、マングローブを切り開いて海老の養殖を行ったりすること。
2.天然資源の直接的搾取(Direct exploitation of natural resources)
無計画に大量の魚を獲ったりすること。また、ゾウの牙やオリックスのツノなどが密売されたり、ペットにするために密輸されたりすること。
3.気候変動(Climate Change)
温暖化が進み氷河が解け、極地の生態系が崩れたり、海面上昇によって住処が失われたりすること。
4.汚染(Pollution)
マイクロプラスチックが魚からの食物連鎖で海の生き物が死んだり、直接的にゴミや汚水で生きられなくなったりすること。
5.侵略的外来種(Invasive alien species)
本来そこにいるべきではない生き物が侵略し、固有種が生きられなくなったりすること。
これら全てが213万種の他の生き物ではなく、ホモ・サピエンスである我々人間の行為が原因であることがわかります。
私たちが生物多様性の回復のためにできること
もう回復不可能と言われている生物多様性ですが、分解して見ていくと、「改善できそう」と思えるものも中にはあります。
象牙で出来た判子など不要ですし、珍しいペットを飼う必要はありません。
ゴミはきちんと分別し、昆虫採集や釣りを楽しんだらその場でリリースする。
小さな心がけから、個人でできることもたくさんあります。
WWFが管理するRSPO認証*4の取れた製品をオーガニックスーパーなどで選ぶことも可能です。
しかし、一般のスーパーで扱われる生産効率が良く価格の安いパームオイル商品は日本では「植物油」等と表記されるなど、判別が難しく、表記の改定義務が待たれています。
このような認証は私達消費者が選ぶための重要なヒントになります。
FSC認証*5やGOTS認証*6など、できる限り認証の取れた商品を選ぶことは、生態系保全に対する企業の行動を促す力になります。
高級な魚が1皿100円で食べられる、地球の裏側から運ばれた鶏肉が100g50円で買える、縫製の大変そうなブーツが500円で販売されている。
何かがおかしいと感じた時、その背景は生物多様性を損失させているかもしれません。
経済・社会・環境は必ずリンクしており、経済が良いからといって、それだけでは持続させることはできません。
逆に、環境が良くなれば、社会と経済も豊かになるはずです。
Nature Positiveはそれを体現できる目標だと考えています。
*4 RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil、持続可能なパーム油円卓会議)認証は、環境的な持続可能性と社会的責任を考慮したパーム油の生産・供給を促進するために設立された国際的な基準。
*5 持続可能な森林管理を確保するための認証。木材や木製製品が持続可能な森林から生産され、環境と社会に配慮した方法で取得されたことを示す。
*6 有機繊維を使用した繊維製品(服や寝具など)の生産過程の持続可能性と有機性を評価する国際的な基準。